殺虫成分を分解する細菌を取り込んで薬剤抵抗性を獲得するカメムシ
同じ種類の農薬ばかりを使っていると、やがて対象の昆虫やカビや細菌などに対しその農薬が効かなくなることがよくあります。きっとこれは農薬の効かない個体以外が淘汰された結果だと思います。
人間にも多くの薬が効かない多剤耐性菌が、手術などで免疫力が落ちた患者がいる病院などで問題になります。
以前、紹介した橋本 一の「薬はなぜ効かなくなるか」には、細菌が抗生物質のアタックから逃れる仕組みがいくつか書かれていました。
関連エントリー:薬はなぜ効かなくなるか/橋本 一 (2006.01.26)
たとえば、細菌を無力化する薬剤の構造を壊してしまったり、薬剤の構造に余計なものを付け加えて効力を失わせてしまう方法が挙げられています。
また、薬剤が作用し不活性化される細菌の酵素の量よりも多くの酵素を作る方法や攻撃されないよう酵素の形態を変えてしまう方法。細胞内に薬剤が侵入されないように透過性を変化させたり、逆に入った薬剤を細胞外に排出する機能の強化などが挙げられています。
あの手この手で細菌は薬の攻撃をかわしているのですね。
最近、産業技術総合研究所などの昆虫(ホソヘリカメムシ)が農薬(フェニトロチオン)に対する抵抗性を獲得するメカニズムの研究成果が日本経済新聞に掲載されて、面白く読みました。
それはフェニトロチオンを分解することのできる細菌をホソヘリカメムシが体内に取り込んで抵抗性を獲得する方法です。
自分にない能力を持った生物の力を借りて問題を解決することが、薬剤抵抗性に関してもあるんですね。
害虫の殺虫剤抵抗性、獲得する仕組み解明 産総研
産業技術総合研究所、農業環境技術研究所などは23日、害虫のホソヘリカメムシが、土壌中に生息している殺虫剤を分解する細菌を体内に取り込んで、殺虫剤に対する抵抗性を獲得していることを突き止めたと発表した。これまでは遺伝子に突然変異が起きて害虫は抵抗性を持つようになると考えられてきた。従来の常識を覆す成果として注目される。
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研究グループは日本各地に生息するダイズの害虫、ホソヘリカメムシ846個体を調べたところ、殺虫剤のフェニトロチオンを分解する細菌は見つからなかった。フェニトロチオンを土壌に週1回散布して、土壌中の分解菌が増えるようにしてホソヘリカメムシの幼虫を飼育したところ、90%以上の個体からフェニトロチオンの分解菌が見つかった。
この分解菌に感染したホソヘリカメムシに殺虫剤を与えても5日後には20%前後しか死なないが、非分解菌に感染したホソヘリカメムシの5日後の生存率は10%以下だった。
産総研の菊池義智研究員は「予防的に殺虫剤を土壌にまくケースもあるが、抵抗性のある微生物が増えていないかを検証する必要がある」と話している。
2012/04/23/日本経済新聞
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