パンデミックH1N1 2009 と季節性インフルエンザの病原性
パンデミックH1N1 2009(新型インフルエンザ)の病原性はどの程度なのだろうと、僕は発生当初から知りたいと思っていました。
致死率が60%にもなる鳥インフルエンザH5N1の病原性とは比べようもないのだろうけど、毎年流行する季節性インフルエンザ、特に同じH1N1亜型であるAソ連型の病原性と比較するとどうなのだろうと。
発生の当初、パンデミックH1N1 2009 の致死率は0.4%で、スペインインフルエンザ(A/H1N1)の2%より低く、アジアインフルエンザ(A/H2N2)に匹敵するとの、WHOの研究チームの推定が報道されました。季節性インフルエンザの致死率が0.1%前後といわれているので、今回のパンデミックウイルスは病原性が高いなぁと感じていました。
関連エントリー:今回のインフルエンザA/H1N1の致死率は0.4%とWHO研究チームは推定している (2009.05.13)
その後、日本でも夏頃からパンデミックH1N1 2009 の感染が拡大し、国立感染症研究所は2009年7月6日以降、10月11日までの累計のインフルエンザ患者数を234万人と推計しています。
一方で、感染拡大が先行した南半球ではアジアインフルエンザより致死率が低いとかイタリアでは季節性インフルエンザに比べて攻撃力?が低いといった報道があったりします。
関連エントリー:南半球ではパンデミックH1N1 2009 の死亡率は低い? (2009.10.24)
国内の感染状況を見ても例年発生している季節性インフルエンザと今年の夏以降発生したインフルエンザ(その98%がパンデミックH1N1 2009 とされている。)の患者の報告数と死亡者の割合をみると、パンデミックH1N1 2009 のほうが一桁低いように見えます。
関連エントリー:冬になってAソ連型とパンデミックH1N1 2009 の関係がどうなるのだろう (2009.10.29)
パンデミックH1N1 2009 の病原性がそれほど強くないのか? 感染者へのタミフルやリレンザの早めの投与が重症化を抑えているのか?
そんなことを思いながら読んだ、ブールーバックスの「インフルエンザ パンデミック」/河岡義裕,堀本研子にパンデミックH1N1 2009 の病原性に関する動物実験に基づく研究結果が載っていました。
ひとつは、若いマウスに季節性インフルエンザウイルスとパンデミックH1N1 2009 ウイルスを濃度を変えて感染させた結果、季節性に感染させたマウスの体重は増加したが、パンデミックウイルスに感染させたマウスは体重が減少し、100万個感染させたマウスは死んでしまったというもの。
もうひとつは、感染させたカニクイザルの肺の病変が、季節性ウイルスの場合は肺胞の空洞部が確保されるのに対し、パンデミックウイルスは肺の内部で激しい炎症が起き肺胞の空洞部分に空気が通らなくなってしまうというものです。
これらの結果などから、「インフルエンザ パンデミック」では、
アメリカやメキシコで報告された新型インフルエンザの死亡例では、肺でウイルス増殖が進み、これが命取りになったケースが多い。通常の季節性インフルエンザウイルスであれば、ウイルス性肺炎になることは滅多になく、むしろ細菌などによる二次感染が原因で重篤な症状に陥ることが多い。このように新型インフルエンザは、毎年流行を繰り返している季節性インフルエンザウイルスとは明らかに異なる性質を持っている。
幸いにして、日本では、タミフルやリレンザなどの抗インフルエンザ薬による治療が広く普及しており、国民の意識も高い。これまで重症化する患者が少なかったのは、患者が感染初期に医療機関を訪れて、適切な治療を受けてきたからだ。
インフルエンザ パンデミック/河岡義裕,堀本研子 211ページ
と記し、新型インフルエンザ(パンデミックH1N1 2009)は、季節性インフルエンザと病原性は変わらないと言うのは誤りだと指摘します。
(「インフルエンザ パンデミック」は、その他にも興味深い記載が満載で面白い本なので、後日、改めて紹介します。)
パンデミックH1N1 2009 の病原性をあなどっちゃいけないというところかな。
新型の攻撃性は10分の1? イタリア保健当局、季節性と比べ
イタリアのファツィオ福祉・保健・労働副大臣は30日の記者会見で、新型インフルエンザについて「季節性インフルエンザと比べ攻撃性は10分の1程度だ」と強調、パニックにならないよう国民に呼び掛けた。国営イタリア放送などが伝えた。
副大臣は「現在までの新型インフルエンザの推定患者40万人のうち、11人しか死亡していない」と述べ、致死率は極めて低いとしたが、患者数を40万人とした根拠には触れなかった。同国の10月中旬時点での患者数は1万5455人。
新型インフルエンザの致死率については、季節性インフルエンザよりも高く、1957年に流行が始まり世界で約200万人が死亡した「アジア風邪」並みの0.5%程度との研究報告がある。
イタリアでは最近、感染者数が急増、南部ナポリで医師らの死亡が相次ぐなど、国民の間で不安が高まっている。
2009/10/30/共同通信
・ MediaMarker
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追記:2009.11.12
カテゴリー「書籍の紹介」に「インフルエンザ パンデミック」/河岡義裕,堀本研子を加えました。
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