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2009.08.22

朝日新聞は何故、パンデミックH1N1 2009 を豚インフルエンザと呼ぶのだろう?

パンデミックH1N1 2009が人から人に感染することが確認された後も、朝日新聞は「新型の豚インフルエンザ」としています。このことが前から気になっていました。

朝日新聞 2009.08.21 朝刊 1面
・ 朝日新聞 2009.08.21 朝刊 1面

関連エントリー:朝日新聞は今回のインフルエンザを、何故今だに豚インフルエンザと呼ぶのだろう? (2009.06.14)

もう、今回のH1N1は豚のインフルエンザではなくて人のインフルエンザだと思うんだけど。あえて「豚」としている朝日新聞の意図はなんだろう。

日本では、今回のH1N1は新型インフルエンザと記されるのが一般的です。それは、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」で規定された定義によっているからだと思います。

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年10月2日法律第114号)
(定義)
第六条
この法律において「感染症」とは、一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症及び新感染症をいう。
7 この法律において「新型インフルエンザ等感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。
一 新型インフルエンザ(新たに人から人に伝染する能力を有することとなったウイルスを病原体とするインフルエンザであって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)
二 再興型インフルエンザ(かつて世界的規模で流行したインフルエンザであってその後流行することなく長期間が経過しているものとして厚生労働大臣が定めるものが再興したものであって、一般に現在の国民の大部分が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)

一方、WHOは今回のH1N1を現時点では、'Pandemic (H1N1) 2009'と記しています。これはH1N1がスペインインフルエンザやAソ連型インフルエンザと同じ亜型であり、免疫を持っている人もいるから、新型とはせずパンデミックとしているのかな。

関連エントリー:パンデミックH1N1 2009に対する免疫は90歳以上? (2009.07.15)

当ブログでは、WHOに習って「パンデミックH1N1 2009」と表しています。そのうちこのインフルエンザは、メキシコインフルエンザとか北中米インフルエンザとか呼ばれるようになるのだろうか?

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コメント

kidaさん。丁寧なコメントありがとうございます。

確かに変異しやすいRNAウイルスのインフルエンザウイルスは、同じ亜型でも無限のバリエーションがあるのでしょうね。
同じ鳥インフルエンザH5N1でも中国で青海湖タイプは特に毒性が強いと言われているように。

「新型」についても、僕はてっきりH5N1のように今までヒトでの感染がない亜型が、ヒト-ヒトで広がるようになったものを呼ぶのだと思っていました。
それで、今回のH1N1が「新型」と呼ばれているのに、最初、違和感を覚えました。
でも、法律で定義されているので、それはそれで別の議論かなと思ったりもしています。

なかなか、呼び方ひとつとっても難しいものですね。
勉強になりました。

投稿: Kaze | 2009.08.23 20:53

ウイルスは名刺を持ってやってくる訳ではない、という言い方をします。インフルエンザウイルスは、一個のウイルスが一つの細胞に感染し、100個とか、もう少し多目に増殖し、細胞外へ飛び出してきた時、もうそれだけで遺伝子が変異しています。その意味では、全てのウイルス粒子が「新型」の可能性があり、逆に、今、話題になっているウイルスの一部は、スペインインフルエンザ当時のウイルスと全く同じ遺伝子をもっている可能性もあります。細かい差異にこだわって名称を考えても意味はありません。「インフルエンザA(H1N1)」それ以上は言い様がないでしょう。鴨にしか感染しないものでも、豚に感染が広がったものでも、ヒト→ヒト感染が成立したものであっても、A型の構造を持つインフルエンザウイルスは全てA型であり、また、特定部位の構造がH1N1亜型であれば、やはり感染する種に関係なく、H1N1亜型です。ちなみに豚は、日常的にH1N1型ウイルスに感染しておりますが、通常は発症しません。また人間界においてH1N1型ウイルスが流行することも、何ら特筆するような珍しいことではありません。季節性インフルエンザと新型インフルエンザが別の種類のような錯覚を与える表現が目につきますが、両者に本質的な差異はありません。そもそもインフルエンザは年中、流行しているものです。ただ流行のレベルは断然、冬季の方が激しく、夏季はぐっと穏やかになるという差があります。また、この数年の傾向としては夏季でも、感染者の発生数が増えてきています。 世界中に伝播するウイルスなど、いくらでもいます。通常は疾病を起こさないので人々の注意を喚起しないだけです。パンデミックは本来、ただ世界中に感染が広がるというだけではなく、重大な損失を与えるものを言います。スペインインフルエンザは犠牲者の数からいってパンデミックと考えられていますが、インフルエンザが原因であると特定された訳ではありません。亡くなった方の多くは他の感染症が原因とする説もあり、今となっては、当時の感染者から直接、採取できるウイルス標本は、氷付けになっていたイヌイットの遺体など、非常に限られたものしかなく、どこまでが、インフルエンザによる被害かを評価できなくなっています。 アジアインフルエンザや香港インフルエンザは遥かに標本の量も多く、インフルエンザの大流行と考えられています。元々、パンデミックフルーというによって被害が広がったと考えられています。 元々、パンデミックフルーへの警鐘が鳴らされたのは、H5やH7あるいはH9など、致死率が異常に高いと考えられる高病原性インフルエンザが鴨から豚を介してヒトへ伝播することを警戒して名付けられたものでした。警戒の余り、H5N1型ウイルスをわざわざ作成し、鶏卵で増殖させて不活化ワクチンとしてニワトリに投与する実験が行われました。私が直接、知っているのは、平成2年に米国ルイジアナ州で行われたものですが、ワクチンを投与されたニワトリからH5N1型ウイルスが発生してしまいました。通常の感染力を失わせても、ウイルス遺伝子が残っている限り、非常に低い確率ながら、ウイルス遺伝子が細胞に取り込まれてウイルス粒子が再生されることがあります。数十万羽ものニワトリにワクチンを投与すれば、確率的には十分、その内の何羽かに、この現象(トランスフェクションといいます)が起こり得るでしょうし、実際、起こってしまいました。現在の日本もそうですが、先進国ではどこでもニワトリに同タイプのワクチンを投与することは禁止しています。ところが、香港を皮切りに、ベトナム、インドネシアなど、不正なのではなくて、禁止されていなかったから、なのですがいくつかの国ではワクチンが投与され、H5N1型ウイルスが発生してしまいました。 一方、H5N1型に対する抗体をもっているニワトリがいたとしても、自然感染したのかワクチン投与を受けたのか分からなくなりますので、ワクチンにはH5N1型を使うべきではないと、H5N2型やH7N3型ワクチンも並行してつくられましたが、今度は、H5N2型やH7N3型ウイルスが養鶏業者の間で発生してしまいます。日本でも2005年8月にワクチンを投与した茨城県の養鶏業者が飼うニワトリからH5N2型が発生してしまいましたが、以後、同様の事件は起こっていません。この2-3年、高病原性インフルの新規発生はニワトリにおいても、ヒトへの感染においても下火になってきたのですが、WHOは、高病原性に限らず、単純にウイルスの伝播状況だけでパンデミックフルーの認定をするように基準を変更してしまっていました。そこへ今回の事件が発生し、「豚」インフルというあたかも新種の如き文言が使われ、また実際に、初期のメキシコで報告された死亡率が異常に高かったため、大騒ぎとなりました。あとは、規約通りにパンデミックだと言ってしまったのです。実際には重症化する確率は低いではないか、なんで、こんな程度の毒性でパンデミック扱いするのか、と、各国政府がWHOを非難しています。 ちなみに、通常のインフルエンザでも、日本で亡くなる方は確定診断ベースで年1000人弱、強い疑いで1万人程度、インフルエンザが原因の可能性がある人で3万人程度となっており、元々、インフルエンザは高病原性でなくても怖い病気なのです。今、問題になっているのは、何ら、通常のインフルエンザと変わりありません。

投稿: kida | 2009.08.23 15:52

コメント、ありがとうございます。お名前の記載がなかったので、「投稿者不詳」としました。

今回のインフルエンザA/H1N1の呼び方、僕はどう記述したらよいのか迷っています。
WHOが、ヒトからヒトへの感染が確実になった段階で、"Swine influenza"から"Influenza A(H1N1)"に呼び方を変えたとき、同じH1N1亜型のAソ連型やスペインインフルエンザと表記上、どのように区別したらいいのだろうと思いました。
WHOは、世界的に感染が拡大した段階で"Pandemic (H1N1) 2009"と表記するようになったので、これに習っています。
それと、今回のウイルスが、ヒトからヒトへ効率よく感染する能力を持ち、世界的な流行を起こす能力のあるのではと考え、「パンデミック」という言葉を使っています。

また、何か気がついた点がありましたら指摘してください。

投稿: Kaze | 2009.08.22 21:09

インフルエンザの伝播ルートは数十年も前から研究されており、あくまで科学的には、人の間で流行するインフルエンザは、豚を介して人間界に伝わるとされています(ホストは野生の鴨)。従い、豚インフルエンザという名称を使うのであれば、全てのインフルエンザ(人)は、豚インフルエンザと称するべきです。WHOは豚インフルエンザと発表した途端に名称の非合理性を指摘され、インフルエンザAと名称を変更しました。つまり、従来型の普通のインフルエンザであることを名称の上では認めた訳です。(その後、この通常型のインフルエンザを毒性の低さを無視してパンデミックと称し、英国政府を始め、各国代表から轟々たる非難を浴びてまいりました。毒性のレベルを考慮すべきであり、新しい基準を検討するとコメントしながら、何も変わらず、今も通常型のインフルエンザを新型と称し、パンデミックと称しております。)今どき、豚インフルエンザという名称を使用する根拠は何もありません。また、「免疫がある」とか「ない」という表現も非科学的です。「自然免疫」は如何なる新規の病原体に対しても反応するものであり、「免疫がない」ということはありえないのです。実際、インフルエンザウイルスは皮脂や唾液に大量に含まれる蛋白分解酵素やRAN分解酵素によって、通常であれば、たちどころに分解、無毒化されます。「免疫がない」というのは「獲得免疫」が即応できる状態になっていない、という意味ですが、そもそもインフルエンザの場合、気道上皮粘膜に感染後48時間以内に増殖・他人への感染が成立しますので、獲得免疫が作動する時間的猶予はありません。厚生労働省研究班も、ワクチンに感染防止効果がないことを認めています。あくまで、ウイルスが血液へ移行し、更にインフルエンザ脳症を発症する「重症化」を防止する目的で、獲得免疫を作動させることを目指すものです。この点につきましても、通常のインフルエンザで脳症を発症し、死に至る方は、元々他の重症疾患をおもちであったか、アスピリンなど、免疫抑制が強い解熱剤を服用してしまった方などです。通常の免疫応答が可能な方が、重症化するケースは極めて稀です。

投稿: 投稿者不詳 | 2009.08.22 15:06

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