iPS細胞 ヒトはどこまで再生できるか?/田中幹人
去年の11月に京都大学の山中新弥教授が、iPS細胞(人工多能性幹細胞 induced pluripotent stem cell)を開発したというニュースを聞いた時、凄い技術が開発されたものだと思いました。
ES細胞も体細胞の核から、多機能性を持った細胞を作り出す技術だけど、対象となる動物の卵を利用して多機能性を持たせているから、倫理的な抵抗感はあるものね。
iPS細胞は、特定の機能に特化した細胞に、3つ(発表時点では4つ)のタンパク質をDNAに導入することにより、特化する前の状態にリセットし多機能性を持たせるものだから、倫理上の問題は少ないのかもしれない。
それにしても、ES細胞にしてもiPS細胞にしても、多機能から単機能と一方通行だと考えられていた細胞の分化が、リセット可能だとしたところが、恐ろしくもあるけれど。
「iPS細胞 ヒトはどこまで再生できるか?」は、ES細胞やiPS細胞とはどういうものか、その可能性と問題点、これら技術を利用した再生医療などを、素人の僕にもわかるように書かれた本で、iPS細胞や再生医療の本を読もうとする時の最初の1冊にいい本だと思います。
まあ、iPS細胞を利用した再生医療が一般的に行われるまでには、越えなければならないハードルが多くて、相当の時間がかかりそうだということだけど。
それと、この本に紹介されていたエピジェネティックスの考え方が面白かった。
一卵性双生児は、全く同じDNAを持っているのだけれど、成長の過程でお互いに違った個性を持つようになります。このことをエピジェネティックスという考え方で、ある程度説明ができるのではないかとういうことです。
どの細胞にも同じDNAがフルセットで入っているのだけど、分化の過程で、その細胞の仕事以外の情報は読めなくなる。この分化の過程のDNA情報の封印のちょっとした違いが個性として表現されるのではという考えを、エピジェネティックスと言うそうです。
その逆がジェネティックス、ES細胞やiPS細胞に関わる技術はこの封印を解き、多機能性を持たせること。
面白いね。
iPS細胞 ヒトはどこまで再生できるか?
田中幹人/日本実業出版社/2008
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