インフルエンザウイルスの増殖スイッチ
インフルエンザウイルスが細胞内で増殖する際に働く物質を、静岡県立大学の研究チームが特定したことを中日新聞が報じていました。
インフルエンザウイルスは、感染した細胞内で自分の複製を作り増殖をするのだけれど、この増殖に感染された細胞内にあるスルファチド(硫酸化糖脂質)が関係しているという研究結果です。
ウイルスが感染するとその一部がスルファチドと結合することにより、ウイルスが増殖を始めるスイッチがオンになるとのこと。
この研究を発展させてスルファチドのダミーを作りウイルスの一部と結合させれば、ウイルスは感染できても増殖できないわけで、抗ウイルス薬の開発につながる可能性を秘めています。
そんなスイッチがあることも驚きだけど、新型インフルエンザ対策のひとつの可能性としても興味深いですね。
タミフルに代表されるノイラミニダーゼ阻害薬*1は、インフルエンザウイルスの感染細胞から脱出を阻害し、アマンタジン*2は感染細胞にウイルスが侵入するとき、自らの殻から抜け出すのを阻害するそうです。
一方、富山化学工業はウイルスが細胞内で増殖するのを阻害する T-705*3の、慶応大学の研究チームはウイルスが気道から体内に侵入するのを防ぐ薬*4の開発を進めています。
また、理化学研究所はウイルスが感染した時にだけ現れるたんぱく質 PDC-TRM*5を発見したり、今回の静岡県立大学のスルファチドの研究など、抗ウイルス薬の開発につながる研究が進められています。
僕が知らない抗インフルエンザウイルス薬の開発も数多く進められていると思います。
新型インフルエンザ対策として、作用機序の異なった新薬が早く世に出るといいですね。
関連エントリー
*1,2 「インフルエンザに感染したかも」(2006.01.27)
*3 「富山化学の開発中の抗インフルエンザ薬が新たな段階に入ったんですね」(2008.01.18)
*4 「新たな作用点をもった抗インフルエンザ薬の開発」(2007.10.10)
*5 「インターフェロンの生産に関係するたんぱく質を理化研が発見」(2008.02.27)
ウイルス増殖ウイルス増殖物質特定 - 新型インフル新薬に道 -
県立大学薬学部(静岡市駿河区)の研究チームが、体内でインフルエンザウイルスが増殖する新しいメカニズムを発見した。同チーム代表の鈴木隆教授(生体分子薬学)は「メカニズムを生かし、新型インフルエンザにも対応できる新薬開発につながる可能性がある」と期待している。
インフルエンザウイルスは体内に入ると細胞内で遺伝子をコピーして増殖し、高熱などを発症する。鈴木教授らは増殖メカニズムとして、細胞内の物質・硫酸化糖脂質(スルファチド)が、ウイルスの一部と結合して遺伝子コピーを始める”スイッチ”となっていることを発見した。
スルファチドの代わりに、ウイルスの一部に結合する物質を見つければ”スイッチ”が入らず、ウイルスの遺伝子コピーを阻止できて増殖が抑えられ、発症を防げるという。
抗インフルエンザ薬はタミフルが広く知られているが、耐性のあるウイルスも出現しており、新型インフルエンザ対策の新薬開発が求められている。今後は新薬の「種」となる物質を探し出す研究に入るという。
2008/05/03/中日新聞
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コメント
タミフルさん、こんにちは。
現状では、新型インフルエンザが出現した時の対抗手段として、鳥インフルエンザウイルスから作ったプレパンディミックワクチンやタミフルに代表されるノイラミニダーゼ阻害薬くらいしかないんだと思います。
ですから、作用機序の異なった多くの手段を持っておくことが必要だと思い、その関係の記事などをウォッチングしています。
投稿: Kaze | 2008.05.08 20:14
うーん、何でもかんでもタミフルが一番だと思ってたんですが、いろいろあるんですね。しかも、日本国内で。
投稿: タミフル | 2008.05.08 02:52