高病原性鳥インフルエンザ感染経路究明チームの報告書は、推理小説のようで面白い
日本の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザH5N1亜型が、2004年に山口・京都で、2007年に宮崎・岡山で発生しました。(表1)
このH5N1亜型ウイルスが、何処からやってきてニワトリに感染したのか、前から興味を持っていました。2007.01.29のエントリー「鳥インフルエンザは渡り鳥が日本に運んできたんだろうか?」に書きましたが、2007年の年初に西日本で発生した鳥インフルエンザは、韓国での発生の1~2ヶ月後に引続いて発生しているため、感染経路として、感染した渡り鳥により中国→韓国→西日本にウイルスが運ばれ、渡り鳥から留鳥や小動物、そして養鶏場内のニワトリに感染したといった説が有力になっています。(表2)
この2007年年初に宮崎・岡山で発生した4例の高病原性鳥インフルエンザH5N1亜型について、農林水産省の高病原性鳥インフルエンザ感染経路究明チームから「2007年に発生した高病原性鳥インフルエンザの感染経路」(PDF)として、詳細な報告がされています。
この報告書、事実を淡々と積み上げ、それに基づき考察を行っていますが、これが凡庸な推理小説よりもずっと面白いものになっています。
報告書によると、宮崎・岡山の4例のウイルス株は、遺伝子分析により相同性が高く近縁であり、'06年に韓国で発生したウイルスやモンゴルでオオハクチョウから分離された青海湖タイプと呼ばれるウイルスとも近縁であることが確認されています。また、'04年に山口で発生したH5N1とは相同性が低く、このウイルスが再発した可能性は否定されています。
一方、その他の感染経路、たとえば人や雛や資材などの移動を検証し、その可能性は低いものとしています。
そういった結果から、H5N1亜型鳥インフルエンザウイルスは、渡り鳥とともに中国から朝鮮半島を経由して、西日本にやってきた。そして、渡り鳥から日本の留鳥や小動物にウイルスが受け渡され、それらが何らかの形で鶏舎に侵入し、ニワトリに感染したのではないかと考察しています。
ただ、2006年冬から'07年春にかけて西日本各地で約6千個のカモ類の糞便中のウイルスの有無の調査結果が掲載されていますが、そこからはウイルスは検出されていません。(表3)
また、鳥インフルエンザが発生した宮崎・岡山の養鶏場の周りのカモ類の糞便中からもウイルスは検出されず、小型鳥の生体からもウイルスやその抗体は検出されていません。(表4)
この結果をみていると自然界におけるH5N1ウイルスの濃度は相当低いにもかかわらず、ピンポイントで養鶏場に侵入しているように見えて、ちょっと恐ろしいのですが。
そうしたわけで、今回の報告書では感染経路は特定されていませが、いろいろと考えさせられます。
もうすぐ、11月です。この冬も、大陸で鳥インフルエンザが発生するのだろうか?関係者は心配顔で空を見つめるのだろうか?
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