安全と安心の科学/村上陽一郎
日本では、屠殺される牛すべてについて牛海綿状脳症(BSE)の検査を行っているけれど、厚生労働省は検査の補助金のうち20ヶ月齢以下の牛については、来年の7月末で打ち切るそうです。
この決定は、2006年年5月に食品安全委員会が出した「我が国における牛海綿状脳症(BSE)対策に係る食品健康影響評価」(PDF)に基づいてされたものだと思います。
科学的な評価に基づけば、全頭検査でも、21ヶ月齢以上の検査でもそのリスクは変わらず、感染源とされる飼料としての肉骨粉の利用禁止や適正な屠殺処理が行われれば、20ヶ月齢以下の検査をしなくても、安全性は変わらないとの判断なのでしょう。だから、20ヶ月齢以下の検査に補助金を出すことは、税金の無駄遣いにもつながると。
でも、店頭に20ヶ月齢以下の牛肉で、BSEの検査をしてあるものとないものが並んでいたら、僕らはどちらを選ぶのだろう。両方の安全性は変わらないけれど、やっぱり検査してあるほうを安心して選ぶんじゃないか?
このへんが、科学的根拠に基づいた「安全」と、多分に心理的な要素も含んだ「安心」を「安全・安心」とひとくくりにまとめられない難しさがあると思います。
村上陽一郎の「安全と安心の科学」には、前述のBSE検査のことは語られていないけれど、安全を中心にそのあたりのことが書かれています。
どんな事象にも100%絶対安全は、存在しないこと。安全はリスクと得られる利益とで考える、最近、定着してきたリスク・マネジメントの考え方を説きます。
そして、例えば統計的には、自動車の事故のほうが原子力発電所の事故よりも、はるかにリスクが高いのに、僕らは原子力発電所よりも自動車のほうに安心感を持っていることなど。
これは、BSEの全頭検査の問題にもあてはまるなあと思いながら読んでいました。
最近、行政や企業などでよく語られる「安心・安全」を考えるきっかけになる本です。
安全と安心の科学
村上陽一郎/集英社(集英社新書)/2005
・ 書籍の紹介一覧 B0058
BSE検査、20カ月以下「一斉終了を」 厚労省
厚生労働省が月齢20カ月以下の牛の牛海綿状脳症(BSE)検査に対する全額補助を来年7月末に打ち切るのに対し、一部自治体が独自に継続する方針を示している問題で、同省が都道府県などに通知を出し、全国一斉に検査を終了するよう求めていることがわかった。検査のある・なしが表示されれば「消費者に不安を与える」などと同省は説明しているが、消費者の選択肢を奪うとの指摘もある。
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同省が国産牛の全頭検査を始めたのは、日本初のBSE感染牛が見つかった01年。05年には、内閣府の食品安全委員会が「20カ月以下の感染リスクは低い」と結論づけたのを受け、補助対象から20カ月以下をはずそうとした。しかし、消費者の不安は根強く、同年8月から3年間に限るとの条件で補助を続けた。
2007/09/11/朝日新聞
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